木と紙を素材に取り入れた暮らし「和」モダニズム

大都会の洋式一軒家の一部を「和」空間に改造

TBS「情熱大陸」でも使われた代官山の松尾昌介氏邸の「和」空間。写真は、東京・代官山の松尾昌介氏のお宅の3階の広間。今年3月に放映されたTBS「情熱大陸」で、下田昌克画伯のインタビューシーンで使われたので、どこかで見た場所だな、と思われた方がいらっしゃるかもしれません。オンエア当日は、下田画伯を囲んで仲間うちで集まって、みんなで番組を視聴したということでした。

松尾さんは、大手広告代理店を定年退職してから、趣味の延長線で、代官山のご自宅をDIYで改造。純和風というわけではなく、洋式の扉の向こう側は、屋上バルコニーに花壇が広がっているなど、ベースは「洋」。しかし、大きな木のテーブルを囲んで床に腰を下ろせば、木の素材のぬくもりを感じるなつかしい空間に浸ることができます。

代官山という、東京でも屈指のお洒落スポットに建つ古い一件家、しかも外観は洋風の趣のお宅の最上階に、こんな和の趣の空間があるとは、驚きのひとこと。梁の木を金沢の古民家から取り寄せるなど、松尾さんが国内を旅して、これはという素材がふんだんに使われているなどのこだわりも。すべて手作りなので、完成された美しさとは違うかもしれませんが、かえってそれが、人の生の営みを感じさせてくれます。

下田画伯をはじめ、日本のトップクリエイターや会社経営者を含む、気の合う仲間が集って、しばしば宴を楽しむかけがえのない場となっているそうです。

心を癒し、身体にもよい「木」がもつさまざまな効用

天井の布は、帆船に使われていたものを使用。幼少期、「和」の生活空間で育ったという人だけでなく、「洋」の生活環境で生まれ育った人、さらには、外国から日本を訪れた人までが、「和」の趣に一種のなつかしさ、そして快適さを感じるようです。これはいったい、どういうことなのでしょう。

その秘密は、「和」空間に素材として使われている「木」と「紙」にあります。

まず、「木」は、金属やプラスティックと異なる独特の光沢があります。これは、木材表面には細胞構造にもとづく微妙な凸凹があるためで、光を散乱させ、温かいイメージを与えます。また、目に有害とされる紫外線の反射が少ないため、目の健康にも優しい材料なのです。さらには、木材の木目や模様には、「1/fゆらぎ」と呼ばれる適当な不規則性があり、自然で心地よい印象を与えるという効用もあります。

そればかりではありません。杉から匂うほのかな香りはストレスを癒し、ヒノキの香りはやすらぎを与えてくれます。

木や森林の香りは、アロマテラピーでも定番化していますが、木材中の微量な芳香成分に鎮静効果があることは、さまざまな実験でも確かめられています。また、鎮静効果のほか、消臭作用、防ダニ作用、殺虫作用、防カビ・抗菌作用があるといわれています。このように、木という自然の素材は、「体」にも「心」にもさまざまな効用があるのです。

暮らしにぜひ取り入れたい「木」と「紙」のアイテム

木と紙を生活に取り入れる工夫の一例。「紙」もまた、さまざまな効用を持っています。和紙は、洋紙と比べて粘り強く、加工性に優れており、さらに、優れた通気性を持っています。

ふすま、障子など、日本の暮らしには、古くから和紙で作られたモノが数多く取り入れられてきましたが、これは高温多湿な日本の気候に合っているため。和紙に含まれる微生物は、花粉症やハウスダストなどの炎症を抑えてくれるという作用もあり、また、通気性の高さから、冬には結露を生じにくいという効果も期待できます。

また、繊維の長い和紙は、照明のカバーとして用いた場合、やはりその微妙な不規則性から「1/fゆらぎ」を生じ、自然で心地よい印象を与えてくれます。最近、和紙を用いた間接照明(和紙スタンド)が、インテリアとして人気があるのも、きちんとした理由があるのです。

もともと、西洋の家が外界を遮断し、安全を確保するという発想からできているのに対し、四季の移り変わりを楽しみ、自然と融和する発想からできている日本の家。この考え方は、現在注目されている「LOHAS(ロハス)」にも通じます。

日本の風土に育まれた「和」の様式。懐古趣味ではなく、安らぎを快適さを現代の私たちの生活に取り入れる「和」モダニズムに注目し、癒やし空間を創造する、というのはいかがでしょうか。

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