趣味の達人 煎茶 大塚邦子さん


本格的な作法を知らない人でも気軽に楽しめる“煎茶”の世界

 毎日、何気なく飲んでいる煎茶にも、「煎茶道」と呼ばれる茶道があります。今回、取材に伺った東松山市在住の大塚さんのご趣味はその煎茶道です。
「お茶が趣味」と聞くと、抹茶を茶筅で点てる抹茶道が頭に浮かびますが、煎茶道は急須を用いて茶葉に湯を注ぎ、それを器に注いで飲む茶道。日常的なお茶の淹れ方と同様の形式なので、抹茶よりもぐっと身近に感じられます。しかも、お稽古に通われているだけあって、大塚さんの淹れるお茶の味は絶品です。
 ご自身は「覚えが遅くて、なかなか上達しないんです」と謙遜されますが、すでに免許皆伝の腕前。実際にお茶会でも、お茶を淹れてお客様をおもてなしする“名府”の役を勤めることがしばしばあります。

「お花はいつも自宅の庭に咲いているものを活けます」と大塚さん。花器とのバランスなどにも気を配ります。

 大塚さんが煎茶を始めたのは13年前。お茶の販売店に勤務していた関係で煎茶道を知り、興味を持ったのがきっかけでした。ちょうど同じ頃、知人から煎茶の家元を紹介されたこともあり、今も通い続けている凰昌流の教室に通い始めたそうです。
“お茶のお稽古”と言われると、つい「難しそう」と身構えてしまいますが、「煎茶は難しいお作法なんて知らなくても、誰でも気軽に楽しめるんですよ」と大塚さん。
 招かれたお客様も懐紙やお菓子用の楊枝などを用意しなくてはならない抹茶道のお茶会と異なり、煎茶道のお茶会ではお客様は身一つで来れば、お茶を楽しめます。
 大塚さんのご家族も煎茶道の予備知識も道具も持たずにお茶会に出席したことがありますが、十分、お茶の美味しさを堪能できたそうです。

煎茶を淹れる手つきはムダがなく滑らか。美しい所作が身に付くのも、煎茶道のいいところ。

上中/大塚さんの煎茶道具。茶わんと茶托は教室の仲間とともにあつらえてもらったもの。道具は総じて、やや小振りに作られています。「“大人のおままごと”という感じで、見ているだけで楽しくなりますね」と大塚さん。
下/旦那様と手作りしたひょうたんの柄杓と、蓮の実の瓶敷き。身近にあるものも工夫次第で道具として使えます。

煎茶の心は“おもてなしの心”。お客様に居心地のいい空間を提供

 作法や様式に徹底的にこだわる茶道と異なり、煎茶のお茶会は、お茶も会話も楽しむことを目的としています。「何よりも“おもてなしの心”が大切なんです」と大塚さんは語ります。
 それだけに、お客様にとって居心地の良い場を提供する必要があります。季節の花々を活けたり、お香を焚いたり、床の間に絵や書を飾ったりと、茶室を整えることも大切な仕度。
 茶器類も、「高い茶器や専用のお道具を揃える必要はないんですよ」と大塚さん。例えば家にあるお気に入りのおちょこやミニカップなどを使うこともあるそうです。また旦那様に手伝ってもらい、ひょうたんの一部をくり抜いて柄杓にしたり、蓮の実をプレスしたものを瓶敷きにしたりと、手作りの道具も使っています。

12年前に自宅を新築したおりに、家でもお茶を楽しみたいと茶室を作りました。床の間には季節に合わせた絵や花が飾られています。

 骨董市をめぐって茶わん(湯呑み)になりそうなものを探したり、何気なく見かけた雑貨について「お茶会で使えるかも」と思案したりするのも、大塚さんにとっては心躍るひとときのようです。
「煎茶を通して、お花やお香、書など様々な世界に触れ、知識が深まるのも嬉しいものです。それに共通の趣味を持つ友人と出会えたことで、人間関係も広く豊かになりました。煎茶は私にとって、今ではなくてはならない存在ですね」。
 最近では免許皆伝の腕を生かし、姪御さんたちに煎茶の手ほどきもなさっています。
「煎茶道を通して学べる“おもてなしの心”は、人間同士のコミュニケーションの基本です。お稽古に通ううちに、美しい言葉遣いや立ち居振る舞いなども自然と身に付きますから、若い方にもぜひ楽しんでほしいですね」
 ご自宅の茶室は一木庵という庵号(茶室、庵の名)を、ご自身も昌葉の茶名(茶の世界での名前)を家元からいただいている大塚さん。「いずれは近所の友人なども招いて、自宅で四季折々のお茶会を開きたいですね」と夢を語る優しい笑顔が、とても印象的でした。



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